全世界で1億部を売り上げた『スラムダンク』の作者井上雄彦氏が
歴史小説界の巨峰・吉川英治氏の架空小説 『宮本武蔵』 を元に
大胆なアレンジを加えて作り上げた剣豪漫画。
基本的な設定と大筋は原作通りだが、実際の内容は別物といっていいものになっている。
この巻では槍術で名を轟かす大和國興福寺に乗り込んだ武蔵と
若き天才・宝蔵院胤舜の一騎打ちがほぼ全編に渡って描かれている。
長物相手によるリーチの差と対主の天賦の才により、かつてない苦戦を強いられる武蔵。
遊戯的とさえ言えるほぼ一方的な戦いにより、彼は次第に心の深奥に芽生えた
恐怖という名の獣へと呑み込まれていく…。
殆どが戦闘描写(しかも決着がついていない)という事で、正直初めてこの巻を読んだ時には
戦いの尺の長さに辟易し、内容が薄いと感じたものだが、4〜8巻までの宝蔵院編全編を読んだ後に
今一度俯瞰すると、必要な苦戦であり敗退であり、必要な長さであったと考えを改めるようになった。
非常に面白い。
驍悍な武蔵と老獪な胤舜の戦術の対比の妙もさる事ながら、戦いを通じて胤舜という「退屈な天才」の
卓越した才能と人間的な何かが欠落している不気味さを存分に描ぎ出している。
ただ、当人らが「命のやり取り」云々を言っている割には、先端を丸めて布で包んだ槍を使っているため、
幾ら突かれたところで致命傷が無く(現に、滅多打ちされているのに武蔵は無事だった)、
剥き出しの刃と刃をぶつけるような緊迫感が感じられないのが残念。