作品概要:
全世界で1億部を売り上げた『SLAM DUNK』の井上雄彦氏が
歴史小説界の巨峰・吉川英治氏の創作小説 『宮本武蔵』 を元に
大胆なアレンジを加えて作り上げた剣豪漫画、第12弾。
10巻後半から12巻まで続く『梅軒編』の2巻目。
ストーリー:
鎖鎌で知られる宍戸梅軒と戦うため、安野郷は雲林院村へ向かった武蔵。
その彼を追う又八一行、おつうと城太郎、梅軒を討つべく安野郷を訪れる甲斐正嗣郎主従。
死神・梅軒が巣食う冬枯れの山に、様々な出会いと別離の荒涼たる綾織り錦が紡がれる事となる…。
所感:
黄落し尽くして寒々とした枝のみが残された木立、晩秋の一面の枯野、浮浪者の如く薄汚れた衣装、
志を遂げる事無く虚しく屍を晒していく登場人物、屍肉に群がる烏、
失って初めて解る隣人のかけがえの無さ、老醜による偏見と錯誤に満ちた妄執、
何ひとつ為せず地べたを這いずり回り、今また逃げ回っているだけの又八の不毛な人生、
世の全てに絶望したかの如く、死んだ魚のような目をした梅軒…
この巻には紙面くの々に至るまで、今までにない殺伐、荒涼たる雰囲気がある。
冒頭、武蔵が数々の武芸者たちを一蹴していく描写は爽快感がありながら、
偽者たちを倒せば倒す程、虚栄心からなる勇名だけが一人歩きしている武芸者たちの実態を知り、
自らの強さに自惚れるどころか、虚しさだけが募っていく心理描写が面白い。
また原作とは梅軒の正体が異なっている演出も素晴らしく、
武蔵との戦いの前に鎖鎌で瞬時に他の人間を殺害して見せた事で、武蔵と梅軒の戦いも
気を抜けば一瞬で死に至るという、どちらが勝ってもおかしくない緊迫感のあるものとなっている。
唯一のネックは戦闘描写。武蔵は梅軒の鎖を「生き物のようだ」と形容したが、
本当にこれはネビュラチェーンのように生きているのではないだろうか。
柳生編では、木刀を投げつけられた人間や鍔迫り合いをしていた人間が3メートルも後方に吹っ飛んだり、
武蔵が軽く5mはジャンプして空中で3人の敵を同時に打ちのめしたりと、
ファンタジー漫画めいた戦いを繰り広げていたが、本巻の梅軒の鎖の扱いもまた物理法則を無視した、
更に現実離れしたものとなっている。
とはいえ、バガボンド全巻を通じても白眉の巻であり、優れた一冊である。