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でも、こうして既刊を読み通してみると、その意図がよくわかる。武蔵の時代は関が原が終わり、徳川統治300年の退屈な日常が訪れる、かつ戦国時代という下克上の秩序が急速に失われていく日本社会の大転換期です。いままでの常識が通じなくなり、政権の移動などダイナミックの歴史の波は停滞します。織田信長や豊臣秀吉などの個人が武勲を立ててヒーローになる時代は終わりを告げようとしていました。そういう退屈な日常の世界は、たけぞうのようなアウトサイダーにとっては、窮屈で生きにくい時代でしょう。そんな時代の中で、「自分」というものの方向性や居場所が不明確で混乱している彼は、生きるのが苦しくてしかたがない。戦争がないから社会も彼を必要としてくれない。はたして彼が生きていく意味と価値はあるのか?。武蔵は、旅と剣を通して、自分の人格を確立していく「道」を求めるようになります。これは正統なビルドゥングスロマンであり、かつそれ実践した歴史上の人物がいるというリアル感も、すごいものがある。いまの時代の退屈さの中で、社会規模ではなく個人が解放と自分の居場所を見つけるために、あがくたけぞうの姿を描くことは、強い共感を得ることは必定だと思うのです。この時代の武芸者やかぶきものたちは、すでに社会のヒーローとなることよりも個人の人格の充実を優先している節があります。柳生にせよその他の放浪者にせよ。たぶん、ほんの20年前の戦国期ではありえないことでしょう。終わらない日常で、人格を充実して生きるすべが描かれているような気がします。
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