広汎で難解なハーバーマスの理論を端的に見事に説明している名著。翻訳も平易で滞りが無いのが良いが、原文を見ていないが、たぶん、著者がかなり頭の良い人で、明快な文章なのでしょう。「コミュニケイション的行為の理論」と「事実性と妥当性」というハーバーマスの後期に属する代表作に著されている理論を平易に紹介している。結果、ドイツ観念論やマルクス主義の色彩の濃かった時代の書物は、デビュー作を除くと殆ど言及が無いほどに圧縮されている。しかし、今となれば、上記二作でハーバーマスの理論は代表されているのだから、過渡的な著作をスキップしても傷にはならないと思う。本書を読むと、一応、ハーバーマスの理論のバックボーンははっきりとする。ハーバーマスの著作を読んだ人は勿論、これから読む人にも良いとおもう。英米系の人たちの解説書には、非常に良いものがあって、有効性という観点からは、残念だが本邦や欧州大陸系の解説書は、大分遅れをとっていると思う。本書の解説を書いている人が、本書の内容にやや否定的な感想を持っているが、私には、その部分こそが、自分も含めて考え直さねばならない点だと思う。本書の著者フィンリースンは、ハーバーマスの著作の要点が何処にあるかをしっかり押さえ、それを説明するためには、ハーバーマスの著述の順序や、時によっては纏め方さえにも沿わずに説明を展開する。結果、その解説は、フィンリースンその人の言葉で語ることが出来ており、まさにcommunicativeである。日本の解説者は、往々にして、踏み外しを恐れて、原典の著述に拘りすぎ、却って未消化の論述となる。そして、その解説書の目的を多義的に考えすぎ、議論が散漫、内容も散漫になってしまう。が、本書は良く出来た英米の解説書の典型で、ここで何を示そうかをしっかり意識して、その目的に沿って論述が組織されている。ハーバーマスが討議を三つのタイプに分けたとして解説するフィンリースンの説明に、本書の解説者は異を唱えているが、たしかに原典では、フィンリースンの説明は少しずれている気もするが、「内容的」に、フィンリースンの述べていることで、間違いだとは私は思わない。このように、細かいことに拘りすぎ、却って良い結果を生まないのは、哲学の解説書だけでなく、日本文学の解説(キーンのそれが秀逸)もしかりであり、実業界では、衛生管理の規準がHACCPに取られ、より優れていると称していた「日本流」はスタンダードにはなれず、CPAを簿記一級より易しいと侮っているうちに、それが国際的な基準になってしまう。知の集約、纏め方が、どこか間違っていないだろうか。単に国際化の政治力のせいだけではないと思う。