ジャーナリストである著者が、ハーバードビジネスクール(HBS)にて自分が体験したこと、感じたことを率直に書いている本です。日本語のタイトルはやや挑発的ではありますが、本書を読み進めると分かる様に、著者は決して徹頭徹尾HBSの批判者というわけではなく、批判精神を失うことなくHBSで学んだ人、というのがふさわしいと思います。
多くの学びの機会に感謝する一方で著者が批判しているのは、合理主義の全能性、というべきものなのだと感じます。本書では著者が様々な"机上の空論"にあきれる様子がところどころで描かれています。おそらく、本書を読んだ多くの人々が、自らの働く現場においても、現場感覚より合理主義が優先される状況を思い浮かべながら、この本の様々な場面に首肯するのかもしれません。
もっとも大切なのは人間性や感性といったものであることには異論はありません。しかし一方で、ビジネススクールやその他機関が産みだしてきた、問題解決のための知的枠組みは、決して無用とはいえないと思います。これら知的枠組み(時にノウハウと謂われるもの)は、ある問題について考える際の貴重なヒントを与えてくれる場合が少なくありません。
重要なのは、このような知的枠組みの装備や思考力などに代表される頭と、人間性や感性のような心のバランスなのでしょう。もしビジネススクールが一方のみに傾斜しているのなら、それは危うい傾向といえるのかもしれません。著者が警鐘をならしているのは、まさにこの点にあるのではないでしょうか。(職業選択についての著者の意見は、やや斜に構えた感を受けたりもしますが)
一点だけ惜しまれるのは、著者の深い洞察とビジネススクールで学んだことについての専門的な記述が(ある程度不可避とはいえ)同居してしまっていることでしょうか。これら専門的記述を話が理解できる範囲で省いた方が、より読者を引き込めたのかもしれないと感じます。
HBSの様子がいきいきと描かれていて、読み物としても秀逸であり、著者と同意見の人も、そうでない人も、貴重な洞察を本書から得られると思います。