今回の不祥事でも堅実経営を自負する金融界の首脳が,そろって司直の裁きをうけた。トップ経営者といえば,一流大学の卒業生で,社会的にも尊敬されてしかるべき人物とみるのが世間の常識だ。もちろん,家庭でもよき父親,また,個人としても道徳的に欠点のない人物であろう。しかし,そういう立派な人物がいったん企業人になると,不祥事を引き起こす。なぜだろう。本書は,多彩にわたるハーバードのケースを駆使して,企業倫理確立のための有力な手がかりを提供する。
著者のペイン教授は,企業倫理戦略への2つのアプローチ,すなわち,法律順守戦略と組織の「インテグリティ」戦略のうち,後者の重要性を強調する。「インテグリティ」は「誠実さ」と訳されるが,著者は「インテグリティ」を単に正直さだけに限定しない。自己管理,責任感,道徳的健全さ,原則への忠実さ,堅固な目的意識などの質の高さに関連する広い意味に拡張する。明確な目的,責任感,理想を抱く経営者が,いかにすれば自己管理の徹底した組織を構築できるかが中心テーマだ。
著者は,企業組織に「インテグリティ」があれば,企業と個人の間にみられる「インテグリティ」のギャップは解消できると強調する。不祥事を企業組織自体の問題ととらえ,組織に「インテグリティ」があれば不祥事を防げると考えるのだ。個人主義思想の強い米国では,組織内の不祥事を防ぐために,まず組織内での個人の行動に対する規制を強化する。禁止事項,順守事項を枚挙し,組織内における個人の不正防止をはかる。しかし,ペイン教授の考え方は別だ。組織自体に不正への抑制力を高める仕組みを作る提案だ。早く言えば,「インテグリティ」をもつ組織風土への体質改善である。誰がその旗振りをするか。ほかでもない。強力なリーダーシップを発揮する経営者である。
わが国でも,働く個人の道徳性はともかく,組織自体が不祥事を起こす。個人として道徳的に立派な人物が,企業人となれば,人格が変わり,企業のためなら,個人的に不正とみられることでも平気でやってのける。組織への忠実性が,個人の道徳観に優先するのだ。しかし,経営者が社会正義を尊重する精神の持ち主であれば,話は別だ。「インテグリティ」に強い企業に生まれ変ることができる。したがって,社会正義感の強い人物を経営者に据え,強力なリーダーシップの下で,「インテグリティ」を備える企業組織を構築すること,それがポイントである。ぜひ一読をお薦めしたい。
(麗澤大学 国際経済学部 教授 堀出 一郎)
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経営の問題と倫理の問題の深い結びつきを示すハーバード・ビジネス・スクールのケースを素材に、〈組織の誠実さ〉の重要性について貴重な示唆を与える。
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