題名にある「ハロワ」とは、公共職業安定所の通称である
「ハローワーク」の略称。主人公は、都内のハロワで嘱託
職員として働きはじめた30歳手前の男性。本書は、彼と、
仕事を求めてハロワに来る人々・ともに働く職員との人間
関係が描かれている仕事小説だ。
ハロワは、仕事を失った失業者と安定した雇用にある公務
員の職員とが対面する空間ではある。が、それが全部では
ない、ということを本書は教えてくれる。 ( 求職者があ
ずかり知らぬところで ) 慎重な男女の恋慕の模様も挟ま
れる。既婚女性職員と主人公との仲が、仕事と恋のあいま
いな境界を行ったり来たりする箇所は、読んでいて胸が高
まる。とはいえ、中心は次のようなハロワユーザー。
たとえば、土方仕事から事務系に転職したい高齢男性、
(障がいなのか)支援が必要そうな男性、クレーマーに近
い相談者、大学4年生の就活生、長期ハロワ通いの求職者、
不採用が100数十社続いている30歳男性...
評者の日々もハロワ通い。そんななか本書を読んだ。「い
る、いる!」と共感できるキャラクターがいるのは著者の、
元職員への聞き取り取材や文献渉猟(末尾に主要参考文献
がある)の確かさによるのだろう。細かい部分までリアル
に描き出されていて楽しめた。相談業務に携わる相談員の
成績も、数値で表わされるという。たとえば、相談者数、
就職率、指名率など。今まで知らなかった相談員の苦労も
知ることができた。ハロワでは、キャバクラのように、相
談員を指名できる。
それゆえに求職者と相談者のあいだの関係が奇妙なものに
変化していくこともある。その様子が実際に本書の中で描
かれているのだが、なんとなく納得できる部分もあるから
おもしろい。
面接を受けても受けても受からない人が最後のほうに登場
する。その人は次第に精神に変調をきたすようにまでなっ
てしまう。この場面を読んで怖くなった。ひとごとでない
と思った。健康を犠牲にしてまで求職(仕事)に執着する
ことだけは避けたいと評者も思った。
蛇足: 「C調」という言葉も登場するがこれは「調子のいい
」とか「軽い」とかいった意味。主人公は音楽好き。具体的
な曲名も文中に出てくる。実際に聴けば物語を引き締める効
果もあるのではないかと思う。また、映像作品化が実現され
ることがあれば観てみたいと思わせてくれる。