1951年生まれの西洋近世・近代美術史研究者が、1994年に刊行した本。ハプスブルク家の「始祖」ルードルフは、権威主義に染まらぬ気さくな王であったようであるが、同家が広大な版図と皇帝位を共に手中にし、また対抗宗教改革を本格化させた16世紀末に、「ハプスブルク家の敬虔」理念を体現する王として、カトリック信仰とハプスブルク家の覇権の象徴として祀り上げられる。その際に注目された主題が、ルードルフが聖体を運ぶ司祭を助けるという、遅くとも14世紀初頭までに原型が成立した伝承であった。著者はオーストリアの研究者の協力も得て、この主題に関する文献(聖餐神秘劇やハプスブルク家成員による再現に関する報告も含む)と16〜18世紀の美術作品を収集し、本書においてそれらを記述・分類し、テクストを踏まえながら図像学的・図像解釈学的に分析し、美術史上に位置づけることによって、支配者や教会に関わる「記憶」と芸術との絡み合いの歴史的変遷を探ろうとする。本書の内容は、205〜207頁に手際よくまとめられている。また、19世紀にハプスブルク家内部から、「ルードルフと司祭」伝承を美術や文学の主題として普及させようという動きが出たことについては、著者の別の論文において分析されているという。本書は、「記憶」が歴史において果たすイデオロギー上の役割について、重要な示唆を含む研究であり、文化と政治の関係に関心のある人にはお勧めである。また、「新教国の旧教徒」画家であるフェルメールの『信仰の寓意』に関する「推理小説的」分析が示すように、近世絵画の背景にある寓意に関心のある人にも、本書は非常に興味深い事実を提示するだろう。歴史学・文献学・美術史学の接点に位置する難しい課題についての、アカデミックでありながら分かりやすく楽しい研究であり、読んで損は無い。