マーク・トウェインの作品である“ハックルベリー・フィンの冒険”を中心にアメリカの文学史を解説した書。人間は自己のあるべき姿を見出しえないでいる宙ぶらりんの(サスペンス)状態で生きている。ハックは自然志向(精神の縛られない自由を求める姿勢)と文明志向(親友のトム・ソーヤーに代表される)との間に揺れながら自分のあるべき生(本当の自分、自己)を追い求めます。つまりハックは、アメリカの人間がどうあるべきかというトウェインが考えた結果の人物像です。この本では“奴隷のジムは持主のもとに戻るべきである”という当時の社会の常識に基づいた“良心”より、“良心”に背き“地獄へ行く”決意をしてジムの救出に乗り出すことで、ハックは自分の中の最も重要な価値をつかみ、存在の自由を自分のものにしたとしています。また、この自分の自由な存在を探求するプロセス自体が結果より重要で、プロセスそのものが“生”の証明であるとします。この本で他に取り上げられる作家はクーパー、ソロー、メルヴィル、ヘミングウェイ、フォークナー、サリンジャー、カポーテー、ベローらで、それぞれの作家とハックとの共通点が描かれます。おそらく多くのハックの読者は10代の時にこの本を読み、トウェインが込めた深い意味合いの充分な理解にはいたらなかったであろうと思われます。そうした意味で、ハックを既に読んだ読者にも未読の人にも勧められる一冊です。また、トウェインの未完の作品、“インデアンの中のトムとハック”などについても触れられており、ファンには必読の書になっています。ただし、作者自身も触れているようにトウェインはクーパーには批判的で、クーパーのインデアンの理想像の完全な否定が“インデアンの中のハックとトム”でされているので、クーパーとハックを同列に並べるのは疑問ですし、高貴なインデアンの理想像を抱いて旅にでる決心をしたのはハックではなくトムであるなどの誤記がある点は指摘しなくてはなりません。