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ハウス・オブ・ヤマナカ―東洋の至宝を欧米に売った美術商
 
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ハウス・オブ・ヤマナカ―東洋の至宝を欧米に売った美術商 [単行本]

朽木 ゆり子
5つ星のうち 4.2  レビューをすべて見る (5件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容(「BOOK」データベースより)

なぜアメリカの有名美術館には、日本や中国の国宝級名品が収蔵されているのか?ロックフェラーらアメリカの大富豪を相手に超一級の美術品を商った山中商会の興亡。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

朽木 ゆり子
東京生まれ。国際基督教大学教養学部社会科学科卒。同大学院行政学修士課程修了。コロンビア大学大学院政治学科博士課程に学ぶ。1987年から1992年まで「日本版エスクァイア」誌副編集長。1994年よりニューヨーク在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

登録情報

  • 単行本: 356ページ
  • 出版社: 新潮社 (2011/03)
  • ISBN-10: 4103289511
  • ISBN-13: 978-4103289517
  • 発売日: 2011/03
  • 商品の寸法: 19.2 x 13.2 x 2.6 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.2  レビューをすべて見る (5件のカスタマーレビュー)
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By naichi トップ500レビュアー
明治時代から第二次世界大戦まで、東洋美術商として世界的に有名であった山中商会。メトロポリタン美術館、ボストン美術館、フリーア美術館、大英博物館など、大規模な東アジア美術コレクションを持っている美術館へは、相当数の作品を供給していたという。二〇世紀初頭にあっという間にビジネスを拡大した山中商会は、ニューヨーク、ボストン、シカゴからロンドンまで活動範囲を広げ、英国王室からも用命を受けていたほどだ。本書は今では知るものの少ない、その山中商会の興亡を描いた一冊。

◆本書の目次
序章  琳派屏風の謎

第一部 古美術商、大阪から世界へ
第一章 「世界の山中」はなぜ消えたか
第二章 アメリカの美術ブームと日本美術品
第三章 ニューヨーク進出
第四章 ニューヨークからボストンへ

第二部 「世界の山中」の繁栄
第五章 ロンドン支店開設へ
第六章 フリーアと美術商たち
第七章 日本美術から中国美術へ
第八章 ロックフェラー家と五番街進出
第九章 華やかな二〇年代、そして世界恐慌へ
第十章 戦争直前の文化外交と定次郎の死

第三部 山中商会の「解体」
第十一章 関税法違反捜査とロンドン支店の閉鎖
第十二章 日米開戦直前の決定
第十三章 開戦、財務省ライセンス下の営業
第十四章 敵国資産管理人局による清算作業
第十五章 閉店と最後の競売
第十六章 第二次世界大戦後の山中商会

終章   如来座像頭部

江戸末期以来、日本国内でも活発に古美術商として活躍していた山中商会が、日本国内の美術ビジネスに与えた最大の功績は、”展観”という販売スタイルを持ち込んだことにあるという。それまでは顧客と一対一で販売するのが通常だったのだが、欧米の画廊に倣い、会場で品物を展示してから販売するという方式に変更したのである。今でいうフリーミアムモデルのようなビジネスモデルが、百年以上も前に行われていたことになる。

ニューヨークに最初の店を出したのが、一九八四(明治二七)年。明治日本のナショナリズムが高揚し、日本としても熱心に対外貿易を促進していた時代である。その当時、日本の美術工芸品のレベルの高さは群を抜いていたという。遠近感を無視し、植物や動物の描き方も誇張され、遊び心やデザイン感覚に富んでいたのである。そんな中、山中商会は、美術工芸品に限らず、盆栽、狆、金魚から”だんじり”まで幅広いラインナップを取り揃え、日本文化を知らしめる役割を果たした。今風に言うとキュレーションということになるだろうか。
今でも海外のソーシャルメディア事情などを、日本国内に伝えるためのキュレーターは見かけるが、日本国内の情報を世界に発信しようとしているキュレーターには、あまりお目にかかれない。また特筆すべきは、山中商会のキュレーションが、美術に関して目の肥えた正真正銘のキュレーター(美術学芸員)達に対して行われていたということだ。つまり彼らはキュレーターから情報をもらうのではなく、情報を与えることでビジネスを行っていたということなのだ。

彼らに取っての最初の転機は、明治後半に訪れる。日本の美術品が品薄になり、値段も高騰してきたのだ。そこに国内が政情不安に陥った中国より、安価な美術品が大量に出回って来た。まるで現在の世界情勢を彷彿とさせる出来事だ。そこで、山中商事は仕入れの中心を一気に中国へと舵を切る。多少非合法なこともあったようではあるが、大量の買い付けを行い、アメリカでの中国美術品ブームも牽引する美術商へとのし上がったのである。ここでの成功のポイントは、文脈形成ということに尽きる。自らが主催する講演会で、中国美術と日本美術を、ギリシャ美術とローマ美術のように相互に入り組んだ「同じひとつの芸術的活動」として取り扱う視点を提示したのである。

本書の副題には、「東洋の至宝を欧米に売った美術商」と書かれている。おそらく当時の人が、山中商会の商いを国内からの「流出」という否定的なニュアンスで捉える傾向が強かったことも受けてのことだと思う。これは、美術というものを目的と捉えるのか、手段と捉えるのかによって、賛否の大きく分かれるところでもあるだろう。

山中商会の商いが、あくまでも「手段としての美術」であったことは否めない。しかし、欧米に追い付き、追い越せと叫びながら、海外を模倣していた時代に、欧米を相対化することで文脈を形成し、日本、そしてアジアという文化を広く知らしめたということは紛れもない事実である。その商魂には、今でも学ぶべき点が多いのではないだろうか。
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31 人中、26人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
戦前最大の骨董商の、欧米ビジネスの栄枯盛衰を描いた物語。資料を基にきちんとした考証が行われていて、これだけのものを書くのに、随分、時間と手間がかかったことと思う。米国在住で、国際感覚のある著者だからこそ書けた題材である。
だが、編年記としては優れていても、物語としての質の高さには疑問符がつく。
明治初期に米国に乗り込んで富豪や王侯貴族に東洋美術を売りさばき、清朝崩壊前後の混乱期の中国で、さまざまなルートでお宝を仕入れた、山中定次郎という人は、強い個性と大きなスケールを持った面白い人物だったはず。でも、一読しても、彼の人物像は良く分からない。著者のねらいは、戦前の個性的な起業家の国際ビジネス冒険談を描くことではなかったのだろう。
では、古美術取引の裏話や、欧米コレクターの東洋美術コレクションにまつわる逸話が読めるかというと、これも期待はずれ。古美術取引というのは、金融取引などと違って、錬金術的要素と情念が絡んだドロドロしたもののはず。だが、著者に骨董趣味がないせいか、美術品そのもの、コレクターの心理、取引の逸話などには、あっさりと表面的にしか触れていない。
「東洋の至宝を欧米に売った美術商」という副題は、山中商会の商売に対する批判的ニュアンスが強い。だが、読んでみると、決して山中商会を弾劾しているわけではない。かといって、太平洋戦争によって、海外資産の大半を失い、あっという間に没落した山中商会に対する愛惜の念も伝わってこない。
要するに、ノンフィクションとしては、真面目で正直な本ではあるが、焦点があいまいで著者のメッセージが明確でないから、読者は読んでいて釣りこまれない。
おそらく、著者が意図していたのは、これまで日が当たったことのない美術分野の近代通商史の正確な叙述であり、その分野の研究者には有用な本だろう。でも、一般読者には退屈。エンターテイメントを期待するとはずれる。
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成毛眞氏の選書だが、氏の選択眼に脱帽した。今までのところ、間違いなく2011年ナンバーワンの書といってよい。

常々、我々は現在からの認識でもって歴史を見てしまい、誤った歴史解釈をしがちである。本書は、日本の美術史に光を当てただけでなく、戦前の日米関係の悪化の過程を、アメリカに残された日本企業の立場から、生々しくもリアルに描くことに成功した。以下、(1)美術史、(2)日米関係史という側面で本書の書評に試みる。

■美術史の側面

本書を読むまで不思議に思っていたことがある。尾形光琳の屏風や安藤広重の浮世絵などの江戸時代までの美術品が、明治時代以降、なぜ欧米に大量流出したのだろう?同様のことは中国美術についても言えた。本書を通じて、その原因がよく理解できた。その原因とは以下の3つに集約される。

認識の問題:価値のある美術品が日本や中国から流出したのではない。美術品としての価値を見出したのは欧米人であり、欧米に流出したからこそ、保護されて現在に至るのである。特に中国の美術工芸品については、義和団の変から第二次大戦まで、実質内戦状態にあった中国に留め置かれていたら、さらに多くの美術品が破壊しつくされていただろう。

宗教の問題:明治時代になると、廃仏毀釈が引き起こされた。寺院への寄進は激減し、経済的に困窮したに違いない。本書でも美術品の流出源としての寺院が描かれている。

経済の問題;幕末に開国して以降、外国製品の流入により、日本は大変な輸入超過、貿易赤字に陥っていた。明治時代以降、茶・生糸と並ぶ重要な輸出品が美術工芸品だった。そして、日本の美術工芸品は、日本人が思っていた以上に欧米人を惹きつけることになる。

■日米関係史の側面

軍部の暴走により日米開戦に至った、戦前日本は軍部に牛耳られた暗い時代だった、といった歴史認識があるが、それは誤りである。日本人もアメリカ人も、誰も好んで戦争はしなかった。アメリカで事業を営み、アメリカに取り残されてしまったヤマナカ商会の視点から、戦前の日本とアメリカが、保護貿易でお互いが自分の首を絞め、抜き差しならぬ関係となり、戦争への転落の道を歩んでいった様子が、本書を通じてよく分かる。

1930年代を通じて、ビジネス面での日米関係は友好的だった。雲行きが怪しくなり状況が一変したのは1941年である。7月2日に日本が仏印南部への進駐を決定すると、日米関係の亀裂は決定的になる。

1941年7月25日、アメリカで在米日本資産凍結令が公布された。日米の往来が禁止されたのみならず、通信手段も凍結された。ヤマナカ商会を初めとする在米日本企業は、日本との連絡を取ることもできず、完全に孤立してしまった。

戦争の火蓋が気って落とされると、ヤマナカ商会はAPC(敵国資産管理人)の支配下に置かれ、解体へと向う。ヤマナカ社員にとってなんと無念だっただろう。しかし、日本人もアメリカ人も、鮮やかなほどビジネスライクで紳士的だった。戦争開始後も店舗での販売は許された。しかし一方で、APCによりヤマナカの在庫は競売にかけられていった。

ヤマナカで働いていたアメリカ人社員が、戦後、競売で売られたヤマナカの美術品を密かに買い集め、大阪の山中本社にニューヨークでの再起を促すシーンがある。ヤマナカはニューヨークでの再開は果たすが、結局はうまくいかずに閉店した。しかし、ヤマナカがアメリカ人社員と強い絆で結ばれていたことは、本書における唯一の救いと言ってもよいかもしれない。
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