ハイチ共和国の歴史研究の第一人者、浜忠雄氏による、ハイチ共和国の歴史の意味を概括的に捉えるのに最適な入門書。
浜氏は、学生時代、E・H・カーの『歴史とは何か』(岩波新書)における、「歴史とは、歴史家と事実とのあいだの相互作用の不断の過程であり、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話なのであります」という言葉によって、「歴史の研究には、過去の出来事だけではなく、現在への眼も不可欠であること」を学んだと述懐されている(本文16頁)。
そのために、この著書の扉を開くと、そのキャンバスで展開される、世界ではじめて奴隷を解放した栄光の時代から貧困にあえぐ現代までのハイチ共和国の歴史を深く理解することができると同時に、現在の視点から歴史というものを紐解くことによって今をより深く理解し、また、その視野を未来にまで拡張してみるという広い視野にたった歴史理解の重要性に、気づかされることになる。
この視点から、本書は、ハイチ共和国が、西欧における商業的・資本主義的な歴史の進展に、また、それにもとづく帝国的・帝国主義的政策とに、どれだけ翻弄されてきたのかということを深く理解できると同時に、このプロセスが、現代の南北問題・環境問題・貧困問題といった諸課題といかに深く結びついているのかということにまで、読者の視野を誘ってくれる。
ハイチ共和国の経済的な最貧状態におかれた人々が、泥を混ぜたクッキーで飢えをしのぐ現状をみて、その歴史的起原を探究したい方に、ぜひお薦めしたい一冊である。