私は産科の現場を離れた医師です。
分娩や手術の現場にいる人間に出来ることは、その瞬間瞬間に考えられる中で「最善を尽くす」事しかありません。いわば冬山の絶壁、ブリザードの中ではいつくばって自分の五感のみをたよりに進むようなものです。悪意のない限り医療過誤の訴訟で原告が勝訴する確率はあまり高くありません。しかし悲しみにうち沈む遺族に対して何らかの補償は必要で、これがわが国では医師の責任追及という形でしか出来ないことが最大の問題なのです。筆者の岡井先生は昭和大学医学部産婦人科の現役教授で、超多忙の中でお書きになったことは驚異的ですが、現在の医療をめぐる情勢が、それほどひどい、危機的状況であるということを憂慮されたことがひしひしと感じられます。医療における無過失保障制度を一刻も早く実現させることを世間に知らせるには最もよい方法で、すばらしい才能に驚きました。