この映画の原題は“No Country for Old Men”「もはや老人の住む国にあらず」=かつてのアメリカの古き正義は通用しない時代になってしまった、という解釈が一般的だ。
この映画の中では、殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)による、理不尽で不条理な殺人が徹底して描かれる。彼を追う老保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)は、何かを悟ったように最後には追跡をあきらめてしまう・・・。
上記のタイトルから想起されるテーマに、さもありなんと思いつつも、何か割り切れない思いが残り、原作を読んでみた。
映画は、基本的に原作に忠実に作られていて、細部はともかく、ほとんど差異は感じられない。しかし、小説のラストの重要と思われる、あるエピソードがカットされているのである。それは ― 老保安官・ベルの祖父の話、である。
かつて従軍(どの戦争だったか失念。失礼)していた時、敵前逃亡するのだが、自分の所属していた部隊が待ち伏せに遭い全滅。事実を知らない軍の上層部は、彼を「生き残った勇敢な兵士」として表彰する事に。
うしろめたさに悩んだベルの祖父は、表彰式の前日、上官に真実を打ち明ける。が、上官には「聞かなかった事にする」と黙殺され、結局表彰される事に・・・。
このエピソードを読んだ時、原作者コーマック・マッカーシーが“No Country for Old Men”というタイトルに込めた意味は、「今のアメリカに、かつての正義は、もうない」ではなく、「アメリカには昔から正義などなかった」なのでは?と思ったのだが・・・。
コーエン兄弟の演出手腕は見事としか言いようがなく、H.バルデムの名演も相まって、この映画にみなぎる緊張感とコワさは、ただものではない。
しかし、ラストの老保安官のモノローグは、なぜ「牛の角に火を灯して暗闇の中をゆく父」(これも原作にあるのだが)という抽象的なイメージの方を採択したのだろうか。
このラストだけは、正しい選択だったか、疑問が残るのである。
他のレビュアーの方は、どう思われるであろうか?