自然科学の確立時期に居合わせた著者、フランシス・ベーコン(1561-1626)は、中世アリストテレス論理学関係の研究―これを「オルガヌム」という―の、「乗り越え」を目指し、本書『新機関(ノヴム・オルガヌム)』を、その解答として世に問うた。本書は、こういった成り立ちを持つものである。
本書の内容に触れる前に、まぎらわしい点を一つ、取り除いておきたい。ベーコンという苗字の哲学者は、もう一人いる。それは、ロジャー・ベーコン(1214?-1292?)である。困ったことに、フランシスコ修道会にかかわりを持ち、思想内容も近世自然科学を思わせるものを含んでいる。こちらとお間違えのないように。
さて本書は、「当時の学問すべてを革新しよう」という遠大な目標の下に構想されたものである。しかし著者が多忙であったことにもよるのだろう、完結とはならなかった。しかし、これが内容を削ぐことにはならず、むしろ「生かした」ように思われる。その理由は、本書の大部分が、読みやすくしかも切れ味の鋭い「アフォリズム」つまり「警句・箴言(しんげん)」形式によって書かれているからだ。現代の視点で本書をひも解いてみても、古いことに惑わされるよりはむしろ、教えられることのほうが多い位である。
本書の意義は、少なくとも二つある。一つは「近代科学の根幹」である「観察と実験」にまつわるものであり、もう一つは、「イドラ」と著者の称するバイアス(偏見)についてである。しかし、それらを下支えする「現実との関わり方」という点が、小生、さらに重要と思われる。この点は、科学・社会・思想分野の「検証」的作品の前付け(本文の前に書かれている部分)に、アフォリズムから、しばしば引用されているということが、よく物語っているのではないだろうか。