「こうした死で購われた貴重な戦訓すら、検閲で封じ込まれていくこととなったのである」。
この著者はすでに、日中戦争や満州についての著作を書いている。本書では、その際に調査したデータや深めた見識をふんだんに活用して、今までのノモンハン事件を扱った著作とは少し違った角度から、この悲劇的な戦いについての分析を試みている。
特に特筆すべきは、検閲月報の分析である。掲載されている例の数は多くはないものの検閲に引っ掛かって宛先に送られることなく握りつぶされた現地からの手紙は、赤裸々に日本軍の苦戦の様子の一旦を示している。また、当時の満州の検閲体制がこの戦いによって強化されたことや、検閲によって実態とは異なる報道が行われることになったことを示す内容は非常に興味深い。
それ以外にも、ソ連のモンゴルでの粛清の様子や、日本軍の当初の勝算、この事件を取り巻く当時の国際情勢や関東軍の内情及び検討状況についても幅広く扱われている。当然、ノモンハン事件そのものに関するデータも、近年明らかになって一部で話題になった旧ソ連側の死傷者数の数などのデータをきちんと反映している。辻政信の著作の矛盾や、事件後の陸軍内での処置、さらにはなぜこの事件がその後の日本陸軍の近代化や機械化につながらなかったのかについても、一定の見解を示している。
既にノモンハン事件について一定の知識を持っている人でも発見があり、一読の価値がある。