著者は元朝日新聞記者にして、J-castニュースの社長。「メディアそのものに存在意義がなく、消滅する」というネット世論の中、ネットメディアで成功した著者が、汗をかけて取材している既存メディアは生き残るが、読者、視聴者の興味と、彼らのニュース感覚に隔たりがある現状に問題がある、と指摘しているのは興味深い。特に、著者が大阪府警のサツ周りだったころ、まんじゅう屋の店員が転倒して、セイロからまんじゅうが転がり出て黒山の人だかり、それをいつのまにか人だかりが人を呼ぶ…という状況を見た著者が出稿した記事がデスク、社会部、整理部のデスクが「おもろい」と、「まんじゅうころころ」という見出しで社会面トップを飾るという過程。「これ面白い」という一市民としての素朴な興味が記者には必要だということを痛感させられる。また、田中金脈問題華やかりしころ、著者が角栄の地元に異動して金脈研究をしたのも、記者の関心に応えるべくイレギュラーな人事運用を認める度量が昔の新聞社にはあった、ということだ。「顧客の興味に寄り添うべき」という、著者の新聞など既存メディアへの提言は傾聴すべき点がある。
個人的には、ブログ炎上を煽って傷口を広げる一因になっているJcasに「やめたれよ」と思うことも少なくないが、収益を上げるためにはネットユーザーの食いつきが良い記事を投入せざるを得ない。メディア記事に数行書き足しただけで独自記事のように書くことが多いのは頂けないが、メディアやサイトをウォッチして、さりげなくスルーされた有為な情報をすくい上げるというJcasの取材が毎日新聞サイト問題という特ダネを引っ張り出せたでのはないかと思った。「カスで結構、我々はジャーナリスト宣言はしていない」と開き直る著者の啖呵とともに、まんじゅうころころのように、もう一度読み手との距離を縮めようという著者のポリシーに共感を覚える一冊。