著者の以前からの思想,新たな情報学,の内容(
こころの情報学 (ちくま新書))を説明しようとした書。
あいかわらず,著者の言いたいところが不明確で痒いところに手が届かない感がある。ただ,提示されるそれぞれの断片が多くの示唆に富むため,かえって刺激的で色々なことを考えさせてくれるという意味で良書。
著者は,生命システムと機械システムの相違点として,従来からある主張(1)恒常性,(2)自己組織化は,生命以外の現象にもみられることを示す。次に,本質的に,生命システムを特徴づけるのはオートポイエーシス(システムをかたちづくる構成素が自己循環的に構成素を生み出し続けること)であると主張するが,オートポイエーシスの定義が不明確で,自己組織化と何が違うのかよくわからない。
著者の思想を,現実のIT技術と結びつけようとするタイプIIIコンピュータ--有機機械,機械情報でなく生命情報を基軸にした情報学的展開に対応するもの--は,依然としてMythの彼方で何を目指しているのかわからない。
一方で著者は,優れたI/Fを提供することにより人間とコンピュータの協調作業を実現するワークステーションやPCと,インターネット技術を同一のものとみなして,タイプIIコンピュータの範疇に押し込めるが,この本のコンテキストからいって,後者はあきらからに前者と異なる特徴を持つ。
すなわち,ワークステーションを用いた協調作業では,課題に対する戦略や最終的な結論は人間が行うにしても,課題に対する解候補は所定の精度でコンピュータが作成する。
これに対し,インターネットでは,人間に解を示すのもインターネットの向こうにいる人間である。コンピュータはI/Fの管理,Googleに代表される情報の整理,この2つを実施する,コミュニケーションツールの役割をはたす。
このようにインターネットは,情報に意味を付与するのを人間が行い,意味を理解することができない機械は情報伝送に集中する技術であり,本書の主張する計算機のあり方に合致しているように思える。
従って,著者のいうところのタイプIIIコンピュータは,今のインターネット技術と地続きであり,インターネット技術をタイプIIコンピュータとしてしまうのは納得できない。