新聞連載のエッセイ、ショートショートなどを集めた本です。「ネオカル」の響きにひかれて買いましたが、サブカルを凌駕した、濃い、あるいはものすごく個人的な趣味や嗜好、場所などが書かれているわけではなく、言ってみればタイトル負け(羊頭狗肉ともいう)です。
なぜなら、「ネオカルチャー新発見」の章に取り上げられているのは、この作家さんの好きな藤子・F・不二雄のほか、原宿のQポットのアクセサリー、ポケモン、ガンダムなどの10本の軽めエッセイだけです。ネオではなくふつうに一般的だし、それほど個性的な鋭い角度が入っているわけでもないです。
ほかに「壁」恐怖症のような、ポーと絡めた思い出エッセイは、おおっ、と思いましたが、新聞や雑誌掲載ということもあってか、長さもいろいろ、全体に薄味です。その中で一番楽しめたのは、甲州弁を標準だと思っていた自分に気づく、というネタ。甲州弁ではアクセントの位置が3音節の場合トップに来るらしいのですが、それを普通だと思っていて、ガンダムのシャアが「なまっている」とずっと思っていた、と。
一冊全体の中では、フィクションである、短編の「さくら日和」と「七胴落とし」が収穫でした。前者はたい焼きにまつわる小学生の女の子の思い出ですが、お母さんとの対話に、子ども特有の小さな違和感やちくりとする居心地の悪さが、春の情景に溶けこむように描かれています。
「七胴おとし」。これはファンタジー好きの私のツボに入りました。ミャウダさんという猫が、子どもたちのつらい感情や痛さを「落とし」てくれる。猫という温かい生物に対する作者の描写も愛おしいです。成長物語ではあるのだけれど、メッセージという骨よりもふっくらした肉がおいしく、不思議な読後感のある物語です。
「ネオカル」には出会えませんでしたが、「なまるシャア」とミャウダさんに出会えただけで、満足の一冊です。