サヴァリッシュが指揮者を務めていた時期のバイエルン国立歌劇場をNHKがハイビジョン撮影したもの。このセットは演奏が完璧だ。サヴァリッシュの充実した響きに乗って最高の歌手達がワーグナーを聴く喜びを満喫させてくれる。特筆されるのはルネ・コロのジークフリートとベーレンスのブリュンヒルデ。コロは絶頂期を過ぎていたとはいえ、指輪の映像の中では最高のジークフリートを聴かせる。数種類でているベーレンスのブリュンヒルデはこのDVDが最高。二人の歌唱が映像で見られるのは嬉しい限りだ。
演奏に引き替え、演出と舞台装置は奇妙なものだ。演出のニコラウス・レーンホフは演出を担当するに当たって、分厚いテキストを歌劇場のスタッフ・出演者に配ったと言う話だが、その内容は普通??指輪の物語に対して持つイメージとはかけ離れている。ラインの乙女がタンスから出てきたり、宇宙船の艦橋みたいな所からライン河を行くジークフリートに呼びかけがあったりと、見る者は自分で「ここはライン川だ」と矯正しながら見なければならない。ジークムントとジークリンデが逃げてくる場面などは、ベルリンの壁をイメージしたのか無機質な壁が強い圧迫感を持っていて、行き場のない二人の悲しみが胸に迫ってくる。抽象的な舞台装置のものは素直に見られるが、具象的なものを配置した場面は、指輪の世界に没入するのを妨げられてしまう。
カメラは舞台をロングで俯瞰していることが多く、アップで出演者の顔を追うことは少ない。ハイビジョンの大画面で見たらこのカメラワークが生きてくるのではないかと思う。私はパタパタとカメラが切り替わるよりは、こちらの方が好きだ。