本作の登場前後でSF界の潮流を変えてしまった金字塔的作品。サイバーパンクと呼ばれたムーブメントは、多くの追随者を生んだ。はからずも現在のインターネット社会の隆盛を予見し、本作がなければ、「マトリックス」(「マトリックス」のヒロインであるトリニティの造形は、本作のヒロイン モリィとそっくりだ)や「攻殻機動隊」は生まれなかったかもしれない・・・。
世界中をネットワークを覆い、高度だが頽廃的な都市文明、国家より巨大企業が力を持った未来社会。電脳空間(サイバースペース)カウボーイと呼ばれるハッカー達が複雑に展開する仮想空間に精神を転移し(「攻殻機動隊」でも多く出てくる描写だ)、企業や国家の情報を求めて非合法に活動する。
そうした未来社会の描写に色を添えるのが奇形的に発展した東洋文化、特に文中に原語のまま無造作にちりばめられる日本語の単語群。物語の発端が、千葉の租界であることも象徴的。主人公の心象風景に東京湾の描写が何度となく登場する。
著者の文章は多くの説明を差し挟まず、多様な単語の羅列が独特のスピード感、ビート感でつづられる。さっと読むと、あっと言う間にストーリーから取り残されるのもスリリング(その分、何度もの再読に耐えるとも言えるが)。黒丸尚の訳文も見事。
追随者の作品の中には今読むと内容が陳腐化し、読むに耐えないものも少なくないが、本作は全く色あせていない。傑作たるゆえんであろう。
残念なのは、著者が本作を含むいわゆる「スプロール三部作」以降、見るべき作品を書いていないことだろうか・・・。