マーティン・スコセッシは音楽監督でもある。そんな思いをさせてくれた作品である。ストーンズのセミ・ドキュメンタリー、70年代の『ラスト・ワルツ』更にはそれ以前の『ロミオとジュリエット』全て音楽が効果的に画面を引っ張っている。この作品でもそれを十分に感じさせる。
今ではビッグ・アップルの代名詞ともなっている主題曲そして“Time goes around the world”はライザ・ミネリのコンサートでもしばしば歌われる隠れた名曲である。
第二次大戦の終結から間もないニューヨーク。二人の男女はそれぞれの思いを戦争によって時間を止められていた。そして再びの出会いが時の流れとそれぞれの人生を動かし始める。画面を見ていて感じたのは“切ない思い”だった。ショービジネス界への階段を登っていくライザ・ミネリの姿が『スター誕生』のバーブラ・ストライサンドにそのまま二重写しのように重なる。ステージへ続く階段を上がっていく一人の女性の後ろ姿をカメラがとらえるシーンである。一方、そうした姿に淡い思いを寄せている男の姿は見ている方が辛い。互いの手が届く距離に居ながら二人の男女の間には埋めることの難しい溝が横たわっている。距離が近ければ近いほど、思いが強ければ強いほど互いに相手を大切にしたいから気持ちの上での溝は深くなっていくもどかしさ。ライザ・ミネリの歌声とロバート・デ・ニーロのサックスは二人の姿を象徴的に表現している。大物スターのさり気ない自然な演技で作られた作品である。