1977年のエラリー・クイーン(フレデリック・ダネイ)の初来日。そして、
ミステリ作家の若竹七海が、かつてバイト先の書店で遭遇した毎週
土曜日に来店しては、五十円玉二十枚を千円札と両替していく男――。
この二つの事柄をモチーフに、作家クイーンが執筆したミステリの
未発表原稿を、北村薫が翻訳したという体裁を採った、早い話が、
北村薫によるクイーンのパスティーシュ小説。
若竹さんが体験した前述の《日常の謎》は、かつて同僚作家がそれぞれに
謎解きを試み、一般公募までされました
(『競作 五十円玉二十枚の謎』)が、
北村さんは当時、それに参加されませんでした。
本書は、その謎に対する北村さんの遅れてだされた「解答」でもあります。
北村さんは、些細な《日常の謎》を連続幼児殺害事件という陰惨な大量殺人に接続し
抽象的かつ宗教的な《見立て》の構図を描き出すことで、じつにエレガントな解法を
提示されています。
そうした、あまりにも神秘主義的、そして、いかにも後期クイーン的な《見立て》に対し、
違和感をおぼえる人もいるとは思いますが、後に北村さん自身が語るように、あくまで
それは「天上の論理」のパロディによる誇張にすぎず、真に受ける必要はないのです。
そして、本書のもう一つの大きな柱にあたるのが、中盤にある
『シャム双子の謎』論。
評論といっても、ヒロインの口頭によるプレゼンという
形式が採られ、内容も決して難解ではありません。
また、クイーンをまったく知らない北村薫ファンなら、一つの
うんちく話としてスルーしても、まったく問題ないと思います。
何といっても北村さんが描く、明るく愛らしい「若竹七海」(小町奈々子)が読めますし。