81年に文藝春秋社から「性の王国」という書名で発表された単行本を文庫化した作品。以前に文藝春秋社からも文庫本が発売されたこともある。80年前後の「性」を扱ったルポ四編が収められているが、ルポの題名と著者の狙いは次の通りである。
【コンドームの20世紀】避妊具の歴史とそれに反映される日本人の性意識の変遷
【買春ツアーの構造】東南アジアの日本の歴史的関わりからくる性のゆがみの構造
【ソープ(当然発表当時はソープではない)村の社会学】高度経済成長による性のレジャー化
【セプテンバーセックス】高齢化社会の到来による地殻変動
ルポを書くために著者は、コンドームの製造工場を訪ね、タイの売春宿に潜入し、雄琴の住人にインタビューを試み、老人の性に正面から向き合っている老人ホームを取材するのだが、これらはいずれも単純に「性」それ自体をルポしたものではなく、そこに調査・文献等からその文化的背景も加味された佐野真一らしいルポである。猥雑さと社会学的な要素が絡み合っているので非常に読み応えがある。
“ゆりかご?(コンドーム)から墓場?(老人の性)まで”の性が見事に描かれていると同時に、「ソープ村の社会学」のように時代の熱気を切り取った作品でもある。
ただ文庫本としては一点不満がある。これらのルポの“その後”に関する加筆がないことである。当時の雰囲気を損なわないという考えなのか、忙しかったのか、理由はわからないが、簡単でもいいから“その後”を知りたかった。特に、高齢化社会における老人の性についてはその思いが強い。
近年の著者は大作といえる作品が多い。勿論それらもいいのだが、本書や「業界紙諸君」「紙の中の黙示録 三行広告は語る」等のように、いい意味でのフットワークの軽い作品も捨てがたい。