日本の若者たちが戦後どのように海外旅行に出るようになり、それがなぜ近年の若者たちは海外旅行への情熱を失ってきてしまったのかについてまでを考察した新書です。ガイドブックやテレビ、旅行雑誌に至る海外旅行を扱うメディアの変化と、航空券ビジネスの変遷とを見つめた論は明快至極。短時間で日本の海外旅行事情史を概観できる大変手ごろな新書といえます。
若者の海外旅行熱が減ってきたのは、70~80年代のバックパッカーが実践してきた「長期間歩くことで、現地が積み上げてきた文化や歴史の文脈に自らを接続していく」タイプの海外旅行が、近年スケルトンツアーの隆盛によって短時日で歩かずに「買う/食べる」だけの消費型旅行へと変わったためだという著者の論考は、実に胃の腑に落ちる思いがします。なぜソウルでなければならないのか、なぜ香港であってマカオではないのか、という旅先の選択理由が旅費の高低にだけ収斂してしまう「歩かない旅」に、著者は大きな寂しさを感じているのです。
私自身は80年代半ば、プラザ合意の恩恵を受ける直前にバックパッカーをした経験があります。小田実の「
何でも見てやろう」に感化されて、往復の航空券だけ握りしめて、ヨーロッパ大陸をデタラメに無計画に何日も一筆書きで歩いたクチです。本書でいうところの第一世代のバックパッカーでした。
確かにあのころ、経済的な余裕がなかったために「買う」と「食べる」には縁遠い旅をしていました。しかし一方で、現地で出会った人々とのなにげないおしゃべりに楽しい思い出を紡いだり、絵画や寺院、遺跡のたぐいに、ヨーロッパの歴史の重みと美しさを感じたりしたものです。国境を越えるたびに空気の匂いまでも変わる経験に、日本では得られない新鮮な驚きを覚えたものです。
そうした自らの体験に照らしても本書の著者が訴える「歩く旅の復権」には大いに頷くところがありました。