江戸は深川、馬風庵(ばふうあん)の「センセ」と「おかつ」「若」の三人が活躍するシリーズをはじめ、江戸と明治初めの風薫る短篇が全部で十一、収められています。
明治の初め、異国の少女メアリーと日本人の青年・吉蔵(きちぞう)との思い出の一コマを綴った・・・・・・「夏草とリボン」。
虫すだく秋の夜、馬風センセとおかつ坊、若の三人に招待されて、江戸の野に遊ぶ気分に浸った・・・・・・「月夜の宴」。
手代(てだい)の兄さんとともに、江戸の湯治場を訪れて、のんびり、ゆったりとくつろぐことができた・・・・・・「湯治場にて」。
桜咲く春の夜、異国に旅立つふたりの若者の祝賀会。明治初期の風景を、ささっとスケッチして垣間見せてくれた・・・・・・「前夜」。
以上四つの小品が、なかでも心地よかったなあ。ドラえもんのポケットさながら、杉浦日向子という「扉」を通って、江戸と明治の日本にひととき、遊んだ心持ちになった短篇漫画集。
上記作品のほか、「殺生」「夢幻法師」「馬の耳に風」「冥府の花嫁」「鏡斎まいる 1」「鏡斎まいる 2」「安らかな日々」の諸篇を収録。
文庫巻末解説に、中島 梓の「彼女はタイム・トラベラーである」と、林 丈二の「<杉浦日向子>のナゾ」。
<まさしく彼女は(江戸時代専属の)口寄せの巫女の性をもっているのです。さもなくば、江戸の方が彼女を呼んでいるのです。>の文章をはじめ、中島 梓の解説文は、一読の価値あり。杉浦日向子の描く「江戸」と本人の共振性を語って、その本質と魅力を鋭く射抜いていました。