安彦良和氏の作品群は、ひとえに「敗者復活戦」の物語だ。しかもカッコいい。
今回は、なんと『古事記』『日本書紀』の神々を人格化するという手法で、読む前は「トンデモ本にならないだろうか・・・」と思っていたが、まったくの杞憂だった。
同じくギリシア神話をもとに描いた『アリオン』は、むしろエンタテインメント性の濃い一人の少年の冒険物語であったが、この『ナムジ』はまさに歴史を描いている。学者先生達の間で延々と繰り広げられている、単なる邪馬台国の“畿内説”“九州説”に着地せず、想像力豊かにしながら、視点はしっかり当時の地政学を見据えている。そこへ「安彦良和流」ともいえる、あの魅力的な絵のタッチが加わるのだ。文庫版で全四巻、徹夜で一気に読んでしまった。
難解な文字でしかお目にかかれなかった神々に息が吹き込まれ、生き生きとした歴史のダイナミズムが渦巻く。当時の支配階級(館衆)が朝鮮半島からの渡来系の人々であり、なおかつ混血の進んだ倭人というのは、最新の歴史的研究から見ても納得がいく設定だ。
歴史、特に古代日本史が嫌いだという人にもおすすめしたい。原始の日本は、決して遅れた“海の孤島”ではなく、実に国際的豊かな時代だったことに蒙を啓かれるだろう。
さて、主人公のナムジは、やはり熱血漢の敗者。若気の至りで、力によって“成り上がっていく”魅力もさながら、野心を捨てた中年の「ヒゲだるま」になっても、人間的な彼の魅力が新たな形で甦る姿に感動する。