ナポレオン時代の歴史全般と戦史系も好きなので、購入して読むことにしました。
それほど期待してはいなかったのですが読んでみて、いい意味で期待を裏切られました。
私はナポレオンの同系統の本は読んでいるつもりですが、1,2の作品を除くと、いい内容の本が少ないと感じているからです。
理由は、日本人が書いた作品は、ほとんど同じような内容で、表面的というか浅い内容の作品が多いからです。理由として、ナポレオンは有名な戦役だけでも18回程あり、限られた枚数では、どうしてもバテテしまうというか、無理がある事と、根本的な問題として、フランスばかりか欧州に対する歴史、地理、民族等に対する広い知識が必要なのに、通暁している著者がほとんどいない事です。
他方、欧州人が書いた本は、著者のオリジナルな深い意見もあるなど、日本人著者かあらは得られない知識が得られる良さはあるのですが、ひどい翻訳が多いものが目立ちます。たとえば、騎兵隊を騎馬隊と訳したり、フリゲート艦を巡洋艦と訳したりなどです。意味は通じますが、うんざりさせられます。
その点、この本は、ナポレオンの戦役の中から8つだけ抽出し、枚数が長くなりすぎないようにしいます。その分、一章あたりの内容は濃くしています。原文の著者は、小説家であると同時に戦史研究家でもある利点を活かし、小説でもない歴史書でもない、いわゆる「史伝」スタイルをとっています。海音寺潮五郎が「悪人列伝」などで用いた手法です。
短い文章の中で、重要なエッセンスと著者のオリジナルの意見をコンパクトにまとめ、平易な文章で書かれているので、軍事関係者ではない一般読者でもとてもわかりやすい書き方です。
著者のオリジナルの発想として、ワーテルローの戦いについて、ダブーとスルトを前線司令官とし(ここまでは、他書でもよく指摘されますが)、
グルーシーは、軍司令官ではなく一騎兵司令官として使い、ネイは外せ!と主張しています。ネイを外せというのは初めて聞きました。
ただ参謀長は、誰か適任を当てよと言うのみで、具体的な名前を上げていません。著者をしても適任が見当たらなかったということでしょう。
なぜ、こういう主張をしているのかは、本書を読んで下さい。
また、この本は翻訳も優秀です。文章も読みやすく、軍事用語も当を得ています(後書きには、日本人の一般読者に馴染のない擲弾兵や騎兵の種類についても解説しています)。また、フランス人の著者が解説していない部分(フランス人にとっては常識的な事柄で解説するまでもないが、日本人にとっては解説が必要と思われる部分)については、翻訳者の補足という項を設けて、解説してくれているので助かりました。
唯一難点を上げると、巻末に各章で取り上げた会戦の経過図が何枚も載せてあるのですが、おそらく元々カラーであった紙面を白黒で載せているため、国ごと、司令官名、部隊名、地名等を色分けして見やすくしているはずの図面が、とても見づらくなってしまっています。まあ、カラーでは出せないでしょうから(そんなに売れないジャンルですからカラーで刷ったら赤字になる)仕方ないのですけどね。カラーで図が出たら満点なんですが。。。ともかくこのジャンルが好きな人は読んでも損はないと思います。