本書の概要をざっくりと言い表すならば、先ず、「日本経済」の体質を診断し、次に、昨今の症状の病因を探って、最後に、治療方針を提起している、といったところであろうか。この流れを説明するに当たって、筆者である脇田成氏(首都大学東京教授)は、特に、経済データを重視、活用しており、このことも当書の大きな特徴であろうか。そして、結論的に述べると、短期的な視点では、景気変動にはサイクルとトレンドの2段階がある、ということを踏まえた上で、以下の2点で縮約される中長期的な方向性が大きなポイントだろう。
それは、「中期的には家計に所得を返し、家計が望む需要が実現されること」であり、「長期的には少子化対策に全力を挙げる」(本書pp.242~243)ことである。殊に、中期的な方向性としての“家計に所得を返す”という意想は、「さまざまな理由から生産性が著しく低下した事態に直面した場合、マクロ経済政策は、生産性が低いにもかかわらず設備投資を後押しする必要はなく、劣悪な投資プロジェクトでなく消費全般に資源を振り向けるような工夫をすべきなのである」(齊藤誠『
成長信仰の桎梏』)という考え方とも通底しよう。
脇田教授は、「企業利潤の家計所得還元が不足していたあまり、今時の不況がより厳しくなった」(同p.241)という現状認識を本著で示す。なぜなら、当著にもあるように、日本のGDP(国内総生産)は約500兆円、その内訳は、家計等の消費支出300兆円弱、住宅を含む投資120兆円弱、政府支出90兆円強、純輸出(輸出−輸入)10兆円強とされる(同pp.48~49)。単純に言って、消費支出の減退はGDPを縮小させる。川北稔・大阪大学名誉教授の『
イギリス近代史講義』にもあるごとく、「(消費)需要が経済を引っ張っていく」からだ。