フラーレン及びカーボンナノチューブの発見に関する研究者達の研究過程や人間模様を「serendipity」をキーワードに綴った物語。ナノカーボン科学の解説を主眼にした物ではないが、要点は説明されており入門書的な性格を持っていると共に、何より本書をキッカケに多くの若い方々に科学の道に進んで欲しいとの熱意が伝わって来る。また、「serendipity」をキーワードにする事によって、異分野間の研究者達の協調の重要性を訴えた書でもある。
既に"まえがき"から著者自身の熱狂振りが窺えて、客観性に疑問を持たせる滑り出しだが、本文はキチンとした冷静さと公平性を持って世紀の大発見の模様が要領良く纏められている。J.D.ワトソン「二重らせん」と似た体裁を持っているが、そこまでは生々しくなく、適度な主観を交えてこの大発見の驚きと興奮を伝えている所に本書の特徴があると思う。特に、1990/9/12のクレッチマーのC60多量合成法に関する特別講演以降、著者がこの世界にのめり込んで行った様子が良く映し出されている。第八章以降は、著者自身の研究についても多くの筆が割かれている。そして、第十章以降は、日本人研究者を主体としたカーボンナノチューブの発見・研究・応用について語られ、締め括りに相応しい。
同じ研究者としての立場から、各研究者達の得意手法、性格や運等にも触れ、ロマンを感じさせる興味深い内容となっている。特に、"偶然性(serendipityの結果)"を強調している点が素人にとっては面白く、大発見の裏側にあるドラマを垣間見せてくれる良書だと思った。