フランスの自然主義作家ゾラによる「ルーゴン・マッカール叢書」第9作。
「居酒屋」の洗濯女ジェルヴェーズの娘ナナを中心とし、それを取り巻く多くの人物による群像劇。
私がゾラを初めて手にしたのは「居酒屋」である。
登場人物たちのだらしなさ、情けなさ、そして救い難さが衝撃的であったため、
新潮文庫より発行されているもう一つの作品であり続編でもある作を手に取るのは自然のことに思えた。
「居酒屋」とは異なり、本作の舞台と凋落の対象は裕福層に絞られているが、救い難いという点では何ら変わりは無い。
高級娼婦ナナはその美貌と肉体を武器に、パリの男達をことごとく社会的に破綻させていくが、
中でもミュファ伯爵のその様が作品の大きな部分を占める。
この伯爵は王宮に出入りする侍従であり、本来誠実で信仰心の強い男であったが、
ナナとの出会いによってある意味「開眼」する。
そしてナナに起因する苦悩に苛まれるが、もはやナナ無くして物事を考えられず、
ナナに金を惜しまず贅の限りを許し、やがてジワジワと家庭ごと崩壊する。
しかし、描かれていない背景では他の男達も同じ苦悩に陥り破綻していることが伺える。
つまりミュファ伯爵は、そんな男達の代表としてピックアップされ、詳細に描かれたに過ぎない。
(その他の男達の零落ぶりについては終盤に怒涛の如くダイジェストに描かれている)
ファム・ファタールをテーマとした作品はいくらか読んできたが、本作のナナはその中でも群を抜く。
しかしそのナナにはどうやら悪気など一切なく、ただ無邪気に己を解放することによって、
意図せず周囲に毒を撒き散らすに過ぎない点に注視したい。
それほど男をとりこにするナナのような女を一度見てみたい気もするが、正直、出来れば出会いたくはない。