江戸川乱歩が黄金時代のベスト・テンの中に選んだことから、
傑作の誉れ高い作品です。
ある年の瀬、ピーター卿がフェンチャーチ・セント・ポール村に迷い込みます。
ここで転座鳴鐘の人員を欠いた急場を救うために、
卿自ら鐘の1つを担当し、9時間の間、鐘綱を握ります。
そして春が訪れた頃、村の赤屋敷当主が亡くなり、
亡き妻と同じ墓に葬るため掘り返したところ、
もう一体見知らぬ死体が発見されるのでした。
教区長の招きで、
ピーター卿が事件の真相を探ることになるのですが・・・。
ナイン・テイラーズとは、九告鐘と訳され、
死者を送る鐘のことで、本作品の主人公は鐘。
転座鳴鐘術という日本人には馴染みの薄い演奏術を駆使した描写が全編を彩り、
巻末には、訳者による用語辞典まで掲載されている念の入れようです。
ミステリとしての彩りも多彩です。
見知らぬ死体は誰で、死因は一体何だったのか?
昔発生したエメラルド盗難事件の犯人は誰で、
エメラルドは今、どこにあるのか?
鐘部屋で見つかった暗号文の意味するものは?
七番鐘バティ・トーマスの不吉な過去とは?
などなど、様々な謎が提起され、物語を盛り上げていきます。
これだけハイテンションな要素が揃った作品でありながら、
★3つにしたのは理由があります。
それは、いくつもの謎が最後に収束するカタルシスを
味わいたかったのですが、あまり感じられなかったことが一つ。
もう一つは、巻末の解説によるところの
「あるかなり奇抜なトリック」が使われている点について、
それほどの衝撃がなかったことです。
この作品は、トリックうんぬんより、
鐘にまつわる荘厳かつ不気味な雰囲気を重視し、
楽しむべきものなのでしょう。
そういう意味で、私の嗜好にはあまり合わなかったようです。