この本を読むのは4回目くらい。かつては角川文庫の鈴木武樹さん訳、そして原書、今回は柴田元幸さんによる新訳。他に野崎孝さん訳の新潮文庫も持っているけれど、読んだっけ、どうだったか。
何度読んでも、深さを感じると同時に、1冊の本としての感想がまとまらない不思議な味わいの本。短編作家としていくらでも書けたんじゃないかと、物語の才能を感じさせる「笑い男」、風俗小説っぽい「可憐なる口もと 緑なる君が瞳」「コネチカットのアンクル・ウィギリー」「ド・ドーミエ=スミスの青の時代」、大戦の傷跡を感じさせる「エスキモーとの戦争前夜」「エズメに--愛と悲惨をこめて」、グラス家物語の「バナナフィッシュ日和」「ディンギーで」、そして早熟で東洋思想を具現したような天才少年を主人公にした「テディ」。
グラス家物語も総体としては未完だし、サリンジャーの世界も花開ききってという前に作家本人が沈黙してしまった。ここにまとめられた9編の物語を通して求められているのは、啓示のような救い、迷いをきちんと認めることなのか、と思うけれど、読むたびに、ぎこちないながらもピュアで上質な短編の、答えの出し切れない世界に引き込まれてしまうんだろうと思う。