異様なシチュエーションの世界を魔法の如き妖しく優美な文章で語り尽くす幻想職人作家ミルハウザーの全12編収録の第三短篇集です。著者の特質は信じられないような設定の物語を構築し、読み手を独特な語りによって説得し尚且つ心中に先行きの見えない不安感を醸成させる所でしょう。『ある訪問』では蛙を妻に持つ友人との再会が『夜の姉妹団』では夜毎に集まる謎めいた秘密結社の暗躍が『私たちの町の地下室の下』では趣味で地下へと降りて行く一見無害な人々が描かれますが、果して大丈夫なんだろうか?という不安感が読後も漂って来ます。本短編集で最も著者のこだわりが感じられる職人シリーズとも言うべき四作を紹介致します。
『ナイフ投げ師』:旅芸人のナイフ投げ師ヘンシュが我が町にやって来た。助手の無表情な女と共に際どい芸が披露され、やがて客席からも参加が要請される。命を軽々しく扱う態度にこれまで多くの屍の山が築かれて来たのではと思わせられ、一座が向かう極端の末路に暗澹たる思いに駆られます。『新自動人形劇場』:自動人形の世界を極めた名匠グラウムは美の極致に到達した後に、新たな境地に立って不細工で醜悪な化け物を拵える。禁断の隠微な頽廃を知った精神の歪みは正常な感覚を駆逐します。『協会の夢』:百貨店が人々の夢を次々に再現し増殖して行き、正道のみでは満足せず堕落した怪しい地下方面へと向かう。我々の脳も次第に麻痺し白昼夢の世界を永遠に彷徨い続けます。『パラダイス・パーク』:究極の遊園地を目指して造られたパラダイス・パークは人々の夢を体現し、批判に晒されながら幾度も変転を繰り返す。全能を誇示し挑戦し続けた天才サラビーが最後に見せた大仕掛けは、意外だが深く肯ける悲壮な手段でした。
このまま著者が職人技を突き詰めて行けば早晩世界の終末が訪れそうですが、私は更に意想外な想像力が発揮されたミルハウザーの新たな世界を読みたいと思います。