オープニングナンバーのタイトル「I.G.Y.」は、1957年〜1958年にかけて
行われた、国際的な科学研究プロジェクトである「国際地球観測年」のこと。
(スプートニク1号打ち上げや昭和基地建設がこれに合わせて行われています)
フェイゲンは1950年代から1960年代前半のムードを緻密に織り込んで、
極上のポップアルバムに仕上げています。まさしく掛け値なしの超名盤です。
いろいろ挙げていくとキリがないくらいに密度が濃いのですが、たとえば
「I.G.Y.」の歌詞をみてみましょう。
当時みんなが信じていた、科学による「輝かしい未来」。その共同幻想を
素直に羅列しているように見えて、サビでは
What a beautiful world this will be…
「来るべき何と美しき世界←→何が美しい世界だと?」とダブルミーニング。
ほか、当時社会現象にもなったミュージカル「ウェストサイドストーリー」
(1957年初演)を彷彿させる内容の「グリーン・フラワー・ストリート」
(フェイゲン本人は、似た内容のテレビドラマの影響を示唆しています)、
1956年のドリフターズのR&Bナンバーをカバーした「ルビー・ベイビー」、
卒業までエッチを我慢しようねという甘酸っぱい名曲「マキシン」、
冷戦構造のなかJFKが打ち出した政策を背景に、核シェルターの小部屋で
デイブ・ブルーベックに夢中になる若者を描いた「ニュー・フロンティア」、
AMラジオのDJ全盛時代を懐かしむタイトルナンバー「ザ・ナイトフライ」、
キューバ革命を一旅行者の視点でシニカルに描く「グッドバイ・ルック」、
そしてアルバム全体のアンコールナンバーとして、肩の力の抜けた
「雨に歩けば」(傑作ハリウッドミュージカル「雨に歌えば」は1952年公開)。
全8曲、ほんとうに完璧です。
ウォルター・ベッカーのプチポチギターが無いため、スティーリー・ダンの
アルバムとは異質の肌触りですが、永遠に聴き継がれる名盤であることに
間違いはありません。
ちなみに、発売ごとに音質やレベルが微妙に違います。
私の愛聴盤は日本初発売(3800円もしました!)のドイツプレス盤ですが、
以後の盤もなかなかの音質です。
もうひとつ、「ナイトフライ」は、DVD-Audio盤が2003年に、そしてSACD盤が
2011年に、それぞれマルチチャンネルのリマスターで発表されています。
DVD-Audio盤、SACD盤ともにマルチchを強く意識したサラウンド感あふれる
仕上がりとなっていて、替えがたい魅力を放っています。
AVアンプとマルチスピーカ、ユニバーサルプレイヤを揃える必要はありますが
「ナイトフライ」を愛聴する方なら機会を作ってぜひともそれらのリマスター盤も
耳になさって下さい。