前半は特に大きな事件もなく、なにかが起こりそうな予感もあまりしない。ただ、田口と子供の入院患者との対話が面白く、それだけで読ませる感じである。この著者の真骨頂は、キャラ作りのうまさと会話の軽妙さにある。ユニークなキャラクター、笑いの取れる会話。それだけでも、エンターテインメントとしては十分だ。
後半になると、事件が発生し、おなじみの白鳥が出てくるのだが、その少し前に、加納という警視正が登場する。その遠慮のなさ,強引な話の進め方、独自の捜査手法を押し通すところなど、完全に白鳥とキャラがかぶっている。二人は学生時代からの天敵で、そのやり取りは予想を裏切らず、けっこう面白い。全体として、登場人物の印象は、「バチスタ」よりも強い。
ただ、肝心の白鳥の活躍する場面が少ない。前作のような活躍を期待している人には、物足りないだろう。また、これは前作にも感じたことだが、ミステリーとしての要素が弱すぎる。とても「ミステリー」などと銘打つわけにはいかない。キャッチコピーのように、単なるメディカル・エンターテインメントとして読んだほうがいいだろう。
物語の中で、ある少年が叫ぶ。「由紀さん(末期の白血病患者)に最後の海を見せてあげられなくて、何が医療だよ。どこがプロなんだよ」この言葉がずしりと胸に響く。最も印象に残った言葉である。現在の延命医療のありかたは本当に正しいのか。私たちはただ患者を生かすことよりも、生きる質を重視すべきではないのか。医療もそういう方向に変わりつつあるが、あらためて医療のありかたについて考えさせられる一言であった。