一人の個人(individual)は複数の分人(dividual)をもつ。という発想が主題である。
これ自体にSF的飛躍はなく、要するに「家族に対する自分と同僚に対する自分はそれぞれ別個の顔で接している」というような、私たちが実際に覚えるすごく普通の(だけど普段はあまり意識化されない)観念だと思う。
それを小説世界の中で、「Dividualism(分人主義)」或いは「ディビジュアル」という新造語に収斂させ、このことが「散影」という顔認識システムが普及し、それに応じて「可塑整形」の技術が向上しているSF世界の基礎付けになっている。
「ディビジュアル」というのは紐解けば結局斬新な発想ではないけれど、著者が端的に「ディビジュアル」という一語でもってそれを社会通念に転換させたことと、それがテーマとなった仮想社会をつくり上げたことに個人的には大変感心した。