私の大好きな映画である。−−この映画は、『ハムレット』や『リア王』などの作品で知られる旧ソ連の巨匠、グリゴリー・コージンツェフ監督が、セルバンテスの『ドン・キホーテ』を元に作った作品である。
主役(ドン・キホーテ)を演じて居るのは、スターリンの怒りを買ひ、上映禁止と成ったエイゼンシュテインの傑作『イワン雷帝』で主役を演じ、指揮者ムラヴィンスキーの親友であった事でも知られる、名優ニコライ・チェルカーソフである。
コージンツェフは、シェイクスピアの『ハムレット』と『リア王』を映画化した事からも知られる通り、旧ソ連の映画監督の中では、西欧的な題材から映画を作る事に優れた才能を発揮した監督である。(コージンツェフには、黒澤明監督の『白痴』を観て、「日本に、こんなにドストエフスキーの分かる人が居るのか」と言って、絶賛したと言ふ逸話も有る。)そのコージンツェフが、『ドン・キホーテ』を映像化したこの作品は、コージンツェフらしい造形の素晴らしさに溢れて居る。
私は、この映画の中で、チェルカーソフが演じるドン・キホーテが、風車に戦いを挑み、風車に槍を取られて、宙を回る場面が、大好きである。チェルカーソフ演じるドン・キホーテは、風車の上で回りながら、こう叫ぶ。−−「人間万歳!」
この場面に、スターリンによる『イワン雷帝』への弾圧を経験したチェルカーソフの、権力への戦いと勝利の姿を見るのは、私だけだろうか?
(西岡昌紀・内科医)