日本人は、ブナの森が好きである。春の息吹、夏の木立の緑の柔らかさ、そして秋の黄葉、どれもすばらしい。
また、里山とよばれるコナラやクヌギの雑木林も人間が長い間作り上げてきた森である。
本書は、これらのドングリの木と人類の長年の関係を解き明かした本である。まさに、ドングリの木がなければ、文明はなかったといってもいいくらいの関係であることに、驚かされる。
古代には食物の供給として、次いで鉄の製造に欠かせない木炭の供給として、大航海時代の船の供給として、14世紀に作られた最大の木造建築物ウエストミンスター大聖堂の材料として、ブルーブラックのインクの原料として、ビールやワインの樽として、などなど数々の事例に圧倒される。
また、関東地方以南の常緑照葉樹林を形成するシラカシやスダジイなどの木と、落葉照葉樹であるミズナラやブナなど同じ種の木とは思えないような多様性は、ブナ科の植物の遺伝子の変容性と氷河期の到来によってもたらされたという。
このように長い間、人類の発展に欠かせなかったドングリの木(本書ではオークと呼んでいる)であったが、今ではすっかりその価値も失われてしまっている。
ところが、本書の最後に深い質問がある。「エッフェル塔とオーク、どちらか一方を選ばなければならないとすれば、あなたはどちらを選びますか」。