はっきりいってしまえばサウンド的には新味はない。それだけにメロディや美しいハーモニーが印象的な作品になった。オルガンやピアノによる作品もとても美しい。
この作品を批評家たちはこう評した。『非実験的』、『駄作』であると。しかしこの評価は大きな間違いである。
リチャードはこの作品によって音楽そのものにもう一度目を向ける様、僕達に促したのだ。ただただ『サウンド』の斬新さを追い求めるあまり、音楽本来の美しさや表現性を失ったことに対する『90年代最高の天才』による強烈な反発なのだ。
エイフェックスツインは音楽を本当に愛しているのだ。そして彼はいまだ、『天才』である。
*また、もう一つ興味深いのは、プリペアド・ピアノによる作品が収録されていることである。リチャードは、エリック・サティを尊敬しているというが、プリペアド・ピアノの創始者ジョン・ケージもまた、サティを尊敬していたのだ。加えて、初期サティのピアノ曲のアンビエントへの影響というのもよく言われることである。するとこれらの作品の収録は、サティ&ケージへのオマージュともとれることであり、そういう意味で『ドラックス』は、リチャードが次のステップへ進むための、過去の活動の総決算とも言えるからだ。リチャードが意図的にそうしたと考えると、次の作品で彼の音楽はどのように変化するのか、非常に期待が持てる。