「知識は絶えず磨かれ鍛えられ、そして育まれなければならない。怠れば衰退あるのみ」。
P.F.ドラッカーの1991年から2003年までの講演記録を編集し、一冊にまとめている。大学や大学院での講義、各種記念講演、日本で開催されたシンポジウムでの講演、アメリカの官僚向けのスピーチ、他。講演ごとに章が分かれており、扱っているテーマも異なっている。内容自体は過去の書籍と重複しており特に新しい発見は無いが、最初から書籍や論文用として発表されたものとは少し違う語り口でその思想の一端に触れることができる。
本書を読んで、ドラッカーがこの世を去ってからもう何年か経っているのに、ほとんど古さを感じないことに驚かされた。いや、それどころか、時代の変化のきざしを的確に見通していたことに気付いて改めて感心させられた。
知日派かつ親日家としても有名だっただけに、日本について言及している箇所も多い。中には一般的な日本人の視点とは少し異なる見方を示しているものもある。例えば、日本は義務教育が無い時代にボランティアを活用した寺子屋制度によって当時世界でも有数の識字率の社会を実現したことがあると指摘して、社会におけるコミュニティの役割とその重要さについて再考を促している。また、何かと風当たりの強い日本の官僚制度については、「私は、日本に他の選択肢があるとは思っていません」と断言している。
他に、医療やグローバリゼーションや世界経済の行方や通貨についての話もある。しかし本書を読んでもっとも印象に残ったのは、知識社会及び経営の本質に関する説明と知識社会での生き方についての啓示である。もう何度も似たような話を読んでいる気がするのに、それでも時々ハッとする。そんなに分厚い本でもないし、特に難しくもない。元々ドラッカーに関心のある方にも、そうでない方にも、一読をお勧めしたい。