評伝なのに、というのも妙だが、この本はとにかく読ませる。
レッスンに遅刻しては走り込んでくる少年時代から始まって、自分を信じて疑わなかった不遜な天才の姿、同時代の芸術家との確執、道ならぬ恋のなりゆきなどが、いきいきと描き出され、リーダビリティに満ちている。
あれほど美しい音楽を生み出したドビュッシーがどうも品性高い人ではなかったらしいとは聞いていたが、ドビュッシーの弱さもまた魅力の一つとして読むことができる。この評伝が彼の音楽を深く愛し理解している人の手になるからか。
ドビュッシーの作品について、さらりと加えられる解説や成り立ちなどにも、読み手はきっと頭も心も揺すぶられるはずだ。この評伝を読了後、私は久々に「牧神の午後」を引っぱりだした。ただ単純に好きだった曲を、このように優れた導き手に導かれて聞き直す喜びは無上だった。