幼い頃、富田勲のシンセでドビュッシーを知った。やがてLPレコードでミケランジェリと出会い、そのロマンティックで情動的な奏法の虜となった。それ以後の自分は、偏狭にもドビュッシーのピアノ曲はミケランジェリ以外聴くに値しない、と頑なに信じ込んでいた。
そんな時出会ったのが、ワルター・ギーゼキングである。ミケランジェリ以前、ドビュッシーを弾かせて右に出るもののなかったピアニストだという。「新即物主義」と呼ばれた彼の奏法は、確かに飾り気がなくナイーフだ。しかし、この音色こそがドビュッシーの楽譜に虚飾を加えず、もっとも忠実に弾いたものだと知り、目から鱗の思いがした。今でも「月の光」「パスピエ」「アラベスク第1番」といった馴染みの作品に耳を傾ければ、そこには明快さを極めながらもなお、豊かな音の交歓があり、厚みと滋味を併せ持つ旋律がある。
ギーゼキングは、半世紀ほども前に鬼籍に入っているが、その演奏をただ懐旧のためでなく現在鑑賞する意義は大いにある。手始めに自分はミケランジェリが遺さなかった「ベルガマスク組曲」の収録されているこの盤を選んだものだった。とりあえずドビュッシーを語りたいあなたには、積極的にお薦めする一枚である。