サンソン・フランソワは持ち前の洗練された感性と即興的な閃きで演奏を進めていくタイプのピアニストだった。このために作曲家がそうした能力を進展させるだけのスペースを与えた曲に関しては信じられないような独壇場の表現力を発揮する。勿論本人がその気になれば、という前提があってのことだが・・・。一方作曲家が演奏家の自由なファンタジーの発露を許さない種類の作品の場合は逆に息詰まりしてしまう。彼がラヴェルやドビュッシーを中心とする近代フランスのピアノ曲を得意としたのもこうした理由からだろう。
ここに収められたドビュッシーの作品集でも、彼の直感的とも言える表現の世界が縦横に繰り広げられている。『喜びの島』のクライマックスで発散させる光輝や、『沈める寺』での彫琢された音塊、『亜麻色の髪の乙女』、『レントより遅く』、『月の光』で感じさせる絶妙なセンス、『前奏曲』、『トッカータ』で噴出する狂気にも似た表現などに満たされた魅力的なアルバムだ。
今回のHQCD化で以前よりクリアーな音質と臨場感が得られているが、同時にリリースされたラヴェルのピアノ曲集に比較して録音自体が61年と古く、若干のテープ・ヒス音が入っているのが残念だ。