8 人中、7人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
「本当の」自分, 2008/5/2
レビュー対象商品: ドッペルゲンガー [DVD] (DVD)
前半部は正体不明のモノ、存在に出遭ったことによってそれまでの日常へは
二度と引き返せない、というCURE以降の黒澤映画の基本的なスタイルが見てとれます。
しかし今作はそういった正体不明のモノのによって引き起こされる心理的な恐怖よりも、
メッセージ性に重きを置いた内容になっています。
黒沢監督の映画はそのほとんどがホラーの型を借りたヒューマンドラマですが
今作はその典型です。
言うまでもなく、この作品におけるドッペルゲンガーは主人公の日々の生活の中で
抑圧されている自己の内面が表象化した一つの記号体です。
他のサイトでは主人公がドッペルゲンガーに入れ替わった可能性を指摘している
レビューもありますが、正直そんな事はこの映画の肝心な所ではありません。
どちらでもいいのです。
それが本々の早崎であろうと、ドッペルゲンガーであろうと、大事なのは
自分自身に対して嘘をついていない「本当の自分」であるかどうかということです。
冒頭に描写された人工人体の開発に明け暮れるが周囲のプレッシャーとスランプ、
ストレスのはけ口の一切無い日常でノイローゼ気味の早崎。
最後に進めば進むほどまるで嘘のようにあっけらかんとして開放感に満ちた表情に見る見る変わっていく。
ドッペルゲンガーであろうと無かろうとそれが「本当の」早崎なんです。
抑圧されていた自己の表象としての分身が、本当の自分を気づかせてくれる契機になった。
この変化に対して否定的な見方をすれば、自己の内側に潜み当人によって隠匿されていたエゴが、
もう一人の自分によって引き起こされた狂気によってついにコントロールできなくなり増長したという解釈もできます。
しかし個人的には、前述したように早崎の充実し明るくなっていく表情を見るに、むしろそういった側面より自らを偽る、
抑圧する事から自身を解放するというポジティヴなメッセージを感じ取れました。
少し前ですが、「空気を読む」という言葉が流行りました。
これは自分が置かれている場の同調圧力に屈するという事と同義です。
現代においては物心がつき小学校に入った時から常に周囲に馴染むことを迫られ、
生きやすく生活しようとすることが結果として自身を生きにくくしているという矛盾が往々にしてあります。
次第に本当の自分とは何なのか、自分は何がしたいのか、解らなくなっていきます。
様々な視点から捉えるができると思いますが、今作はそんな現代社会の病理をつき、
疑問を投げかけている社会派のヒューマンドラマという見方が一つ、できると思います。
黒沢監督の映画はそうしたメッセージ性を重視するあまり娯楽映画として破綻している作品もあり、
観る側にとって優しくないなーと思う事も結構あります。
しかし今作はそのあたりのバランスも上手く取れています。
映画を観た、というお決まりの充足感と、なんだか背筋がむず痒い、
黒澤映画特有の後に残る気味悪さ、両方が絶妙なバランスで感じられて中々楽しく観ることができた作品でした。
12 人中、10人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
脚本、素晴らしいと思います。, 2005/1/12
レビュー対象商品: ドッペルゲンガー [DVD] (DVD)
楽しませていただきました。
ドッペルゲンガーという現象ではなく、
「人間」を描いた作品だと思っています。
夢見る青少年向けではないかもしれません。
どちらかといえば、それなりに世の中現実を見てきた人向けかな。
立ち止まって、自分の挫折も栄光も、
どこか客観的に振り返って、クスッと笑えるような人、
お勧めしたいですね。
後半部分がまさに楽しいです。
大衆向けではないかもしれませんが、
好きな人にとっては秀作だと思います。
2 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 3.0
奇妙な安定感, 2011/8/27
レビュー対象商品: ドッペルゲンガー [DVD] (DVD)
前半はホラー、後半はアクション、と、黒沢清が持てる力をのびのびと発揮した作品だと思う。ナンセンスコメディのような演出で、ケッサク、とここはカタカナで書きたい。
この映画の主役は役所広司演じる技術者だが、ほぼ同じ資格で永作博美演じるヒロインも主役なのだと思った。二役の不自然さを特殊撮影の「自然さ」をできるだけ避けて分割画面というもっと大きな不自然さで描くところとか、後半部分のオフ・ビートな追いかけっことか、画面に動きが多くて飽きないし、少し引いたシーンでいきなり起こるあっけない暴力も迫力がある。
死を媒介にして早崎(役所)の性格がまったく変わってしまうのだが、「仲間」とか「パートナー」とか「信じる」ことにやたらこだわるユースケ・サンタマリア演じる若者との諍いを、ラスト前に早崎がやすやすと越えてしまうのが信じがたく感動的。柄本明が死ぬシーンは前の黒沢映画でも観たような気がするが、やっぱり笑った。とってつけたようなラスト・シーンも丁寧に描かれていて、こういうふうに終わるしかない、と納得させられるものだった。どうも巧く面白さを言い表せないのだが、映画としてとても奇妙なのに、非常に安定した印象を受けたのだった。