1)横田氏のこの本の最大の勘どころは「リアリティ構成法」である。これは横田氏が、豊富な経験から編み出したドキュメンタリー番組の制作方法である。彼は、BBC(英国放送協会)が多用する「まず、リサーチをして、完全なシナリオを作り、それに映像を貼り付けてゆく」という方法に対して、「これでは面白い番組はできない」と考えた。そこで横田氏は、まず、対象の人物について、長短さまざまな映像シークエンスを撮影し、その映像シークエンスがどのくらい視聴者の興味を惹きつけるか、その重みを斟酌して配列する。そのとき時間軸に沿って徐々に興味を盛り上げ、時にはいったん、沈静させておいて、華々しいシークエンスに導き、視聴者を堪能させるのである。こうして「ドラマ以上にドラマチックなドキュメンタリーを開発した結果は、かずかずの国際、国内コンクールの受賞作となって開花した。
2)ドキュメンタリーにしばしば「やらせ」がつきものという俗説に対して、横田は「素人に演技をさせても無駄」とドラマ監督の経験から喝破する。その代わり、横田は思いいれや、ドキュメンタリーで取り上げる主人公の日常の情報を集め、かつ観察し、さりげない動作や周辺の情景から、主人公の心情や性格を描き出す。これが成功したとき、その映像を、横田は「黄金カット」と呼ぶ。
3)実際の制作経験から編み出された「戦訓」が59本のエピソードで紹介されている。このエピソードだけでも、一般読者に良質の「人のありよう」を伝えよう。教育現場で映像論を語る教員にとっては、得がたい血の通った理論書でもある。(琴川渉)