リルケの著作の中では「マルテ」よりも後世に与えた影響は大きい。ハイデガーやアガンベンをはじめ、いろいろなところで引用される。十の悲歌よりなるが、詩歌の中でも思弁的な要素が強いせいか読みやすい。無常の存在である人間として生まれた詩人は何によって生きていくかということを問い、詩人はさまざまな委託に答えて言葉を発していかなければならないという強い宣言みたいな詩の数々。人は何を認識できるか、人の世界はどのように開かれているか、人の愛はどこに向かうべきか、そういったものに対するリルケの考え方が展開されており、良い意味で哲学的である。たとえば第八悲歌などは動物の世界と人間の世界の違いについて思いをめぐらしており、この問題意識はアガンベンの「開かれ」に通じる。とにかくいろいろな問題群をはらんでおり、それでいて読みやすい。手塚富雄の訳はもちろんのこと、注釈も絶品だと思う。詩歌の解説でこれ以上隅から隅まで読んだものは他にない。