コナン・ドイルはホームズもの以外にも多数の短編を残している。本書はドイルが死の前年に編集した本(過去の作品の集成)のミステリー編7作に、訳者の判断で「五十年後」という短編を加えた作品集である。しかし「五十年後」は一種の人情話であり、初訳の大正時代には評判がよかったらしいけれど、美談としてはいかにも類型的であって、この作品集に含めるには据わりが悪い気がする。また「悪夢の部屋」という作品は異色であり、訳者も解説で「およそドイルの作品らしくない」と評しているとおり、ミステリーというよりは出来の悪いコントのような作品で、他から浮いている。
他の作品は決して低調なわけではない。扇情的な描き方は慎重に避けられ、ミステリーとしては大変上品に格を保って作られた作品には好感をもつのに、私は一作を読み終える毎「さあ、次」という気には遂にならなかった。自分の体調や心理にも左右されることではあるが、読んでいるときはけっこう楽しんでいたはずなのに、引き込まれるような面白さを感じることはなく、ずっと倦怠や退屈が同居していたように思う。それはトリックの古さに拠るものかもしれず、だとすれば私の古典への対処法が誤っているのである。しかし研究者でもない読者にとって、これでは娯楽としての読書が成立しない。今の私よりももっと落ち着いた、時間に余裕のある状況で、一語一語を玩味するように読むべき作品なのだろう。熟読玩味に耐えるかどうかは今ひとつ自信がないけれど。