著者はミュンヘンに暮らして16年のフリージャーナリスト。これまで「住まなきゃわからないドイツ」「びっくり先進国ドイツ」(ともに新潮社)といった比較的軽めの読み物で、ドイツをとりまく話題を伝えてきました。こうした前著を楽しく読ませてもらってきた私にとって、本書は待ち望んでいた最新作といえます。
ただし本書は新潮選書という少々硬めの刊行物の一冊ということもあり、至って本格的ジャーナリスティックな内容と書きっぷりです。
アメリカの突き抜けたかのような純粋資本主義的システムとは異なり、ドイツの経済は本書によれば「社会的市場経済」、つまり市民の社会的安定を保障するために、政府が経済政策や社会政策を調整するというものです。
これまでの日本の経済政策にも大なり小なり通じるものを持つそのドイツ経済には、確かに社会的弱者を取りこぼすことがないようにというプラスの面がありましたが、本書を読むと近年はマイナス面がますます目立ってきているようです。たとえば欧州市場の統合によって近隣諸国と比較すると労働コストの高さが際立ち、一方で手厚い社会保障制度にあぐらをかく国民がいる、といった現状が綴られます。
ではどうしたらこの状況から抜け出すことができるのか、といった方策については、技術革新によって高い生産性を維持し、高付加価値の製品を作って労働コストの安い海外との競争に勝つ、技術革新をもたらすだけの国民を作るために教育制度の改革を目指す、といった具合で、まさに日本にとってドイツは対岸の火事ではありません。
ただし、教育制度改革や技術革新というのは一朝一夕で達成できることではなく、本書に描かれたドイツの山積する課題を読むにつけ、暗澹たる思いにとらわれるばかり。安倍新政権発足後、社会的安定という側面で日本はどこへ向かうのか、それを気にしながらの読書でした。