本作品は『ポーの一族』に並ぶ超名作で、キリスト教の教義の本質を説くような、あるいはまるで神の高みに近づこうかと言うような、コミック史上、最も崇高な作品です。
作者は本書を執筆した動機について、次のように語っています。
「『トーマの心臓』をかくきっかけとなったものは、ある年の冬にみた『悲しみの天使』という映画です。
これは、フランスの全寮生の男子校の、少年どうしの愛の物語で、年下の方の少年の自殺という事件で、その物語が終わります。
年上の少年は、後悔の涙にむせぶのですが...。
(中略)その結末が納得できません。
もし、年上の方の少年が、年下の方の少年を、ほんとうに愛していたのならば、むしろラスト・シーンから物語を始めたらどうだろう...。
ということで、自殺から始まる物語をかき出したのが、『トーマの心臓』です。」
(鈴木志郎康著『萩尾望都マンガの魅力』清山社より)
そうして描かれた本書のテーマは「愛」と「許し、許されること」。
その宗教的なテーマについても、作者は上記対談の中で次のように語っています。
「その後イギリスへ旅行して、『ジーザス・クライスト・スーパー・スター』の映画をみました。
これでキリスト教と、宗教の救いについていろいろ考えて、そして、やっと『トーマの心臓』の結末が頭に浮かびました。」
ちょうど「ポー・シリーズ」の前期と後期のはざま、作者の絵が最も繊細だった時期に描かれたこの作品は、幾度繰り返し読んでも心の奥深く刻まれた感動がその都度甦り、決して色褪せることがありません。
ただ、本書の欠点は、全扉絵掲載によるリズム感の喪失と、中途半端な途切れ方で2巻に引き継がれることで、とくに前者はこれまでのフラワーコミックスや萩尾望都作品集などでは感じられなかったものです。
本書を☆3つとしたのはそのためで、企画・編集段階での失敗だと思います。