と言いたくなる作品。
これは買って損は絶対無いと断言できる作品です。
今日現在までの評価がオール星五つ・・・普通の場合ならそれだけで
へそ曲がりなあら捜しをしたくなるものだが、この映画に関しては
それが不可能。
かなり昔のことだが、何も知らずレンタルでこの映画のVHSをナニゲに借りた
自分は本当に幸運だったと思う。
ローバジェットで製作され、(製作当時としては)たいした客寄せスターも出演していない。
派手で金のかかった演出もセットもイフェクトもない。
耽美的でも、ショッキングでもなく、斬新で特別な映像美があるわけでもない。
だが、この映画は80年代から今日までの私のランキングのベストワンを動かない。
それは、やはり脚本と演出、製作、主演のハーヴェイの実力とキャラの力が大きい。
しかし、出てくる役者のキャラが全て立ち、またその一人ひとりの演技水準が
非常に高い。
ショーの進行役の女性や、アーノルドの同僚など、ストーリーの流れとは
直接関係のないキャラでさえ、存在感が抜群である。
(これはショウビズの世界の特色かもしれないが)
この映画を見ているだけで、日本のショウビズと米国のそれのプロとしての
実力の濃さが桁違いなのだとひしひしと感じる。
(とくにピラミッドを5等分した場合の最上部2段階未満から下がって、
中間部ぐらいまでの層を構成するプロの実力と人口の厚さはものすごいのではないか
と想像させられる)
全てのセリフとシーンがエンターティメントとして立ち、しかも説得力が抜群である。
全編名シーンなどというと入れ込みすぎかもしれないが、
実際これほどに濃くていいのかと思うほど中だるみが無い。
第一の要因は、ハーヴェイの脚本がダントツにいいということだと思うのだが、
これほどセリフの完成度が高い作品を見た事がない。
どのシーンをとってもウイットがあり、ユーモアがあり、真実があり、おしゃれだ。
ことにアーノルドと母親の口げんかのシーン。
あれは、日本で言うと「寅次郎のアリア」のごとき芸術品だと思う。
導入部の、楽屋で化粧中のアーノルドの独白シーンから、エンタメ性抜群の
ステージ、三部構成のストーリーのそれぞれの小さなエピソード、
微妙なダブルデート、2世代の親子関係、アクシデント・・・とあまり体験できない
シチュエーションなのに、個人的に体験するありきたりの出来事と感情に
全てがオーバーラップして共振し、静かなエンディングに向かうまで
まるで見ている側がアーノルドの人生を生きてきたような感覚にとらわれる。
音楽、セリフ、エピソードの繊細さと面白さ、小道具の使い方・・・引き込まれて
引き込まれて・・・もう言う事がない。
そしてまた、映像のほうが適度にラフなテクスチャーを持っていて、
それが非常に良い。
実際は、ゲイの人権など考えたこともない時期に見たもので、
ゲイに対するこちら側の認識を考えさせられたものだが、
個人的にはこの映画は単にそれだけのものではない。
ちょっと大げさかもしれないが、
あらゆる個性を持って、自分自身を生きている人に持つ
個人レベルの不理解や偏見を取り払えば、全て真剣に生きている
人たちは愛おしいものだという事に気付くきっかけとなった。
フレームを変えることにより、それは認識できる。
「逆の世界を考えてみて」というセリフの威力や抜群である。
アーノルドが「彼の愛するもの」を抱きしめるラストシーン。
非常に可憐で、見ている側がその上から彼を抱きしめたくなる。
最初から最後まで、これほど愛おしい映画と言うものは
私としては他にない。